学生相談室所蔵図書の紹介『はだしのゲン』

学生相談室には貸し出しできる図書があります。もちろん、相談室利用者でなくとも借りることができます。

 

心理系や福祉系の書籍には、レポートの参考文献として通用する学術書もあれば、やさしい言葉で書かれた生きるヒントとなるような実用書もあります。

 

やさしく読めるもののなかには、障害、ジェンダー、LGBTQ+、アールブリュットに関する本もあります。

 

さらに、間接的に気持ちが明るくなったり、落ち着いた気分になるような本の用意もあります。

 

そうした本のなかには漫画も含まれていて、たとえば杉並相談室では入口の待ち合いソファーの横に歴代の相談室スタッフが皆さんに読んでほしいと思って購入した漫画本があります。

 

今年購入した本には『はだしのゲン』があります。

 

紀伊國屋書店のサイトでは「著者の体験をもとに、強く明るく生きる少年・中岡元の姿を通して、原爆の恐ろしさ、命の尊さ、そして平和への強い願いが込められた名作。」と説明があります。

 

込められている願いはそうだとしても原爆をモチーフとした痛ましい表現の多い漫画は学生相談室にふさわしくないのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

もちろん、全ての相談室利用者にフィットするものではないでしょう。

それでも、次の二つの理由から相談室の書棚に加えました。

 

    自分のことばかり考えすぎると窒息してしまう。

…というようなことを19世紀に活躍したヨーロッパの文学者が何かに書いていました。ずいぶん前に読んだものだったので、今回出典を明らかにすべく調べてみたのですが探し当てられずにこのような曖昧な言い方になっています。文脈ももしかしたら違っているのかもしれませんが、私はそれを読んでから、自分のことで苦しくなったら、もっと違うことに、たとえば社会のことに目を向けようとする心の働きが生まれました。自分についての苦しさはしっかり向き合わなければいけない場合もあるけれど、ぐるぐる考えすぎていることもあるかと思います。そんなときにいったん自分から離れて(けれども自分の存在もそこに含まれる)社会について考えてみると、たまに突破口も見つかったりします。言うまでもなく、自分より不幸な人がいることに安心するためでは決してありません。戦争や「核」というものが今また大きな脅威となっている世界情勢を踏まえるなら、平和や命の尊さについて教えてくれる漫画でもあります。

 

    主人公ゲンの生き方

主人公は原爆(および後遺症)で家族の半数以上を失い、さらに次々と不運に見舞われますが、戦争や原爆に対する怒りを伴いながらも前に進もうとします。…と書くと、「私そんな強くないし…」という声も聞こえてきそうですが、「強くあれ」とメッセージを送りたいわけではありません。18世紀のドイツの哲学者にカントという人がいます(美学史において大変重要な『判断力批判』という書物も著しました)。カントは、「たび重なる不運と絶望的な心痛のために生きる喜びを全く失った人」がそれでも「自分の運命に臆病になったり打ちのめされたりせずに、むしろ怒りで立ち向かい、死を望みながらも自分の生命を守るならば」、その人は道徳的な人だと述べました(『道徳形而上学の基礎づけ』)。たとえば、自分の生命を愛せなくなったとき、「もっと自分を大事に」とか「自分のことを好きになって」という声かけがむしろ負担になる場合もあるかもしれません。人生や自分を愛さなくてもいい、人は生きなければならないという義務感だけでも命を維持でき、それが非常に道徳的ですばらしい生き方だという考え方もあるということです。主人公ゲンはカントの示す人間像にぴったり重なるわけではないのですが、私はそうしたことを思い浮かべながら『はだしのゲン』を再読しました。

 

なんとなく興味が沸いたら手に取ってみてください。

今日は『はだしのゲン』の紹介でしたが、今後も相模原、杉並の図書を紹介していく予定です!


学生相談コーディネーター